d Innovator編集長 織田浩一氏より

民主化するインフルエンサー

ブルーカレント・ジャパン設立にあたり、Ad Innovator 編集長 織田 浩一氏より、特別寄稿いただきました。

2001年にアメリカでプロクター&ギャンブル(以下P&G)が広告業界を驚かせた。他のティーンたちに影響力のあるティーンを組織して、そこからマーケティングを行うTremorを立ち上げ、自社製品やCoca-Cola、映画、CDなど、エージェンシーとしてマーケティングをはじめたのだ。P&Gは世界最大の広告主でありながら、様々な新しいことを試みる会社で有名である。マーケティングの新しいトレンドはP&Gを見ていると分かるとも言われている。

その当時から広告主はマス広告の効果に大きな疑問を持ってきていた。TiVoに代表されるハードディスク型ビデオレコーダーによりテレビCMは飛ばされ、Apple iPodに代表されるMP3プレーヤーの爆発的普及でラジオが聞かれなくなり、新聞の購読者は毎年減りつつあり、雑誌もティーン向けのものなどが廃刊になっている。

マス広告が効かないと言われてきた背景には、消費者の変化、メディア環境の変化があげられるだろう。従来は、デモグラフィック特性である程度消費者をセグメント化してターゲティングを行うことでマス広告は成り立ってきた。しかし、近年、接触するメディア・コンテンツやライフスタイル、嗜好が多様化し、同じデモグラフィックグループに入っていても、必ずしも同じ商品を気に入るとは限らない。この情報過多、そして時間が一番貴重な資源である時代において、ネットや携帯でのオンデマンド的なメディア接触になれた消費者は、自分に合っていないマス広告は飛ばしてしまうと言うわけだ。

そこで、解決策として欧米で大きなブームを見せているのがクチコミマーケティングである。

従来のクチコミはまわりの少数の人たちへ影響を与えるのが精々だった。だが、ブログ、ソーシャルネットワーク、コミュニティサイトなどCGM(Consumer-Generated Media:消費者作成サイト)の爆発的普及、そしてブログなどが検索エンジンで上位に上がりやすいことなどから多数の消費者の購買行動に影響を与えることが可能になってきている。実際、クチコミ調査会社Intelliseekによると、90%近くが他の消費者からの推奨を信頼し、60%強がオンラインで見つける他の消費者の意見を信頼する。それに対してTVCMは50%以下である。消費者の意見を強く信頼するということがよく分かる。

The Influentialsだが、その消費者の中にも、インフルエンサーと呼ばれる人たちがいることが分かっている。インフルエンサーとは日本で言うと「カリスマ」という言葉が訳として一番近いと思うが、他の消費者に大きな影響を与える人たちのことだ。インフルエンサーについて調べた書籍「The Influentials」ではアメリカ全人口の10人に一人が残りの9人の消費行動などに影響を与えるということが語られている。

従来はTVタレントなどがインフルエンサーであったが、上述のとおり、メディアが細分化しライフスタイルや嗜好も細分化し、多くの消費者がCGMをつくることでメディアになる時代においては、自分とライフスタイルや嗜好の似ている人たちのコミュニティが形成され、その中にインフルエンサーが生まれている。これらのトレンドを一言で言うと「民主化するインフルエンサー」ということになるだろう。

P&GのTremorは20万以上のインフルエンサーティーンを組織し、キャンペーンを行い数々の成功を収めてきている。これらのティーンたちは平均的なティーンがインスタントメッセンジャーの中にいる友達リストが30人であるのに対して150人以上もあるという。まさに、その小さなコミュニティのインフルエンサーであるわけだ。

インフルエンサーマーケティングに力を入れているのはP&Gだけではない。昨年生まれたクチコミマーケティング協会には250社以上がメンバーとなり、インフルエンサーマーケティングを中心に様々なクチコミマーケティングサービスを提供している。さらにその中の専業エージェンシーの中には大手広告コングロマリットに買収される会社もいくつか出てきて、市場が大きく成長することが期待されると同時に、ポストマス広告のマーケティングサービスの一つとして広告・PR会社になくてはならないものになりつつある。

http://www.vocalpoint.com/http://www.tremor.com/今年3月、P&Gはインフルエンサーティーンを組織したTremorに続いて、60万人のインフルエンサー「ママ」を組織したVocalpointを設立した。ティーンで学んだインフルエンサーマーケティングのノウハウを他の世代にも応用し始めたのだ。

アメリカではすでに多くの広告主が使っているインフルエンサーマーケティングの手法が、いよいよ日本でも本格的に始まるようだ。インフルエンサーマーケティング元年としてどのような効果の高いキャンペーンが生まれるのか楽しみである。

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著者紹介

織田 浩一氏デジタルメディアストラテジーズ社代表、アドイノベーター編集長。 広告・メディアビジネスコンサルタント。米シアトルを拠点とし、欧米の新広告手法・メディアテクノロジー・IT調査・コンサルティングサービス、記事執 筆、講演を行っている。最近ではマーケティング・広告分野でのアルファブロガーとも言われている。
コメント、質問はemail@adinnovator.comへ。
ブログは、http://www.adinnovator.com

テレビCM崩壊 翔泳社から著者監修の翻訳本、『テレビCM崩壊〜マス広告の終焉と動き始めたマーケティング2.0』(Joseph Jaffe著)を発刊。マスマーケティングを超えて、新しいマーケティングを考える企業や担当者には必見の本です。ぜひご一読ください。

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